さよならの準備

いつかくる日のために

【読書】もっと老人を面白がっていい「老人介護/じいさん・ばあさんの愛し方」

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後悔しているお別れ

すごーく若いときの思い出で、お別れが近づいてきた相手の存在感や身体上の不自由を、必要以上に恐れてしまった事がある。

当時私は「いよいよお迎えが近いんだぞ」という人物と相対すること自体がはじめてで、彼が元気で健康だった時の印象のまま会いに行き、案の定衝撃を受け、折角の面会時間に上手く話せず…それが最後の面会になってしまった。何も言えなかった自分に驚いたし、いやあれは自分が幼かっただけだと思うけれど、ふと不安になったりもする。

会話が上手くできないこと(極端に声が大きかったり、聞こえなかったり、会話の内容だったり)、食事が上手にとれないこと、涎や体の匂い…今まで知っていたのとはまるで違う人物のように感じてしまったこと。

なぜあの時あんな風な態度を取ってしまったんだろう。例えばその相手が親だったら?いずれ自分が主介護者の立場になったとして、未来の両親の事も同じように恐れてしまうだろうか?老いた相手と今までと同じように付き合えるのかな?今でも自信が持てないでいるんだった。

 

老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた (新潮文庫)

老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた (新潮文庫)

 

三好春樹さんについて

著者は「生活とリハビリ研究所」の代表三好春樹さん。

三好 春樹(みよし はるき、1950年- )は、広島県生まれの介護、リハビリテーション理学療法士)の専門家。生活とリハビリ研究所代表。「オムツ外し学会」や「チューブ外し学会」を立ちあげて介護、看護、リハビリの枠を超えて日本全国で 「生活リハビリ講座」を開催し、介護に当たる人たちに人間性を重視した老人介護のあり方を伝えている。(三好春樹 - Wikipedia

学生運動を主導した余波から高校を退学となり、いくつかの職を経て介護職に就いたところからストーリーは始まっていて、三好さんの職業人生と共に出会ってきた愛すべき「じいさん・ばあさん」達を章立てて紹介している。

老人を「面白がるため」の本

あくまでエッセイなので、専門書ほどではないのだろうけれど、エピソード中に介護での大切なポイントや、病院と施設の違いなども添えられている。でもそれは、あくまでも副次的な要素であって、基本的には「じいさん・ばあさんを(語弊があるけど)面白がるため」に書かれていると感じました。

個性が「煮詰まった」老人たち

登場するのは強烈な個性や面倒臭さを持った人ばかり。お嬢様育ちのまま老女になった岡田さん、ヤクザ映画よろしく広島弁で怒鳴り散らす森田さん、終戦後一度も風呂に入っていないという竹之内さん…どの人も身体的には不自由があっても、精神的にはとても自由なふるまい、他人からどう思われるかなんて些事からはとうに脱している。腹も立ちそうなものだけれど、三好さんは彼らの「可愛げ」や「彼らなりの理屈」も書き出している。

なかでも前述の問題行動の多い「森田さん」が、懇切丁寧にお世話をする職員さんよりも、時に彼を怒鳴り返し、挑発したりからかったりもする看護師さんに心を開いていく様子に腑に落ちるものがあった。

私はこの過程を見ていて思った。まごころ、なんてものは通じない、と。いや、正確にはこういうべきかもしれない。本当のまごころが相手に通じるということは、とてもきれいごとじゃないんだ、と。

老いの不自由から涙にくれて、施設関係者のまごころに感謝する可愛そうな老人なんていうのはある意味こちらの勝手な老人像であって、それを押し付けられるのが彼らには一番腹立たしい。面白がられたって構わないし、腹が立ったら怒っていい、皆そのままの付き合いを望んでいるんだよな。

この本を読んで、「介護は重く、常にまじめに(?)向き合うもの」「人生の締めくくりを第三者が抱える一大事」という思い込みが溶けた。というか、確かにある一面ではそうなんだけど、色んな瞬間があり、自分の思う向き合い方をしても構わない。という発見が出来たのが、自分の中では本当に大きなことでした。

三好春樹さんの本、読んでいきたいな~と思っています。